わが子を算数・数学嫌いにさせない習慣

じゃんけんで有利な手は? 1万1567回分のデータが示す「傾向と対策」

2021.09.10

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芳沢 光雄
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算数や数学は、公式や解法を暗記し、数字を当てはめて正しく計算できれば、正解にたどり着ける――。パターン化した入試対策の影響か、受験生はそんな「暗記数学」のわなに陥りがちです。人工知能(AI)が急速に普及するなか、今後求められる算数・数学の力とはどんなものでしょうか。数学者で、小学生から大学生まで幅広く数学の面白さを教えてきた桜美林大学リベラルアーツ学群の芳沢光雄教授が、「AI時代に必要な数学力」を説きます。(タイトル画:吉野紗月)

2回続けて同じ手を出す割合は……

じゃんけんはグー、チョキ、パーの3つの手があります。もし、相手に見えないように事前にサイコロを投げて、1か2の目が出たらグー、3か4の目ならチョキ、5か6の目ならパーを出すとしましょう。この場合は、グーもチョキもパーも、毎回同じぐらいの可能性で出すことになるでしょう。これを「グー、チョキ、パーの手は、どれも確率1/3で出す」といいます。

しかし、じゃんけんを何回も行っていると、個人の癖(くせ)が表れても不思議ではありません。人によってグーが多かったり、チョキが多かったり、パーが多かったり。あるいは、同じ手を続けて出すことがよくあるとか、逆にないとか……。

そこで私は、1990年代後半、当時勤めていた大学の数学科ゼミナールの4年生10人に、膨大なじゃんけんデータをとってもらいました。そのノートは今でも大切に保管しており、725人から集めた、のべ1万1567回のじゃんけんの記録が残っています。725人のおのおのが、10~20回のじゃんけんをして得たもので、のべ1万1567回の内訳は、グーが4054回、チョキが3664回、パーが3849回です。ここから一般に、グーが多く、チョキが少ないことが分かります。したがって、「一般にじゃんけんではパーが有利」といえます。心理学的には、「人間は警戒心をもつと拳を握る傾向がある」とか、「チョキはグーやパーと比べて出しにくい手である」と説明できるそうです。

データからは別の特徴も見られます。2回続けたじゃんけんはのべ1万0833回あり、そのうち同じ手を続けて出した回数は2465回でした。たとえば、じゃんけん10回戦を行って、順にグー、グー、パー、チョキ、グー、パー、パー、パー、チョキ、グーと出したならば、そのうち、1回目と2回目、6回目と7回目、7回目と8回目が同じ手を続けて出したことになります。この例は、「2回続けたじゃんけんはのべ9回で、そのうち同じ手を続けて出した回数は3回あった」ということができます。

1万0833回のうち2465回という数が意味するのは、「人間が同じ手を続けて出す割合は1/3よりも低く1/4ぐらいしかない」ということです。もし、冒頭で示したようなサイコロによるじゃんけんを行ったならば、同じ手を続けて出す割合は1/3です。このことから、「2人でじゃんけんをしてあいこになったら、次に自分はその手に負ける手を出すと、勝ちか引き分けになる割合は3/4もあって有利」という結論が得られるのです。グーとグーであいこになったら次に自分はチョキを、チョキとチョキならパーを、パーとパーならグーをそれぞれ出すと、有利といえるのです。

ところで、統計データをとるとき、一番大切にしなくてはならないのは、データを勝手に改竄(かいざん)してはならないということです。上で示したじゃんけんデータをとった学生諸君の代表は、現在、青森県弘前市の柴田学園高校の教頭として活躍している中村友是(ともゆき)さんです。彼は、「このじゃんけんデータは(芳沢)先生が関わらないで、自分たちが公平にとったものであることを、どこでも堂々と伝えます」と公言します。皆さんも、いろいろな統計データをとることがあると思いますが、ぜひ、この精神を大切にしましょう。

最後に研究課題を出します。

【研究課題1】じゃんけんは、グー、チョキ、パーの「3すくみ」の特徴をもつ勝負事です。では、「4すくみ」の特徴をもつ勝負事は考えられるでしょうか。

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